日産自動車が2025年5月27日に公表した株主総会の招集通知により、内田誠前社長をはじめとする退任した執行役4人に対して、総額6億4600万円の報酬が支払われたことが明らかになりました。
日産自動車の概要と今回の事態
日産自動車は1933年に設立された日本を代表する自動車メーカーの一つです。長年にわたり「技術の日産」として知られ、数多くの革新的な技術とモデルを市場に送り出してきました。しかし、2018年のカルロス・ゴーン元会長の逮捕以降、同社は経営の混乱と業績悪化に見舞われています。そして2025年、日産は過去最大級の経営危機を迎えました。
2025年3月期の連結最終損益は6708億円の巨額赤字となり、これは当初予想の800億円赤字から大幅に悪化し、同社の1999年度の経営危機時の6843億円に迫る過去最大規模となりました。
今回明らかになったのは、経営責任を取って3月末に退任した内田誠前社長、中畔邦雄氏、坂本秀行氏、星野朝子氏の副社長3人の計4人に対する退任報酬です。これは同社が巨額の赤字に陥り、大規模なリストラを進める中での発表となりました。
経営陣退任の経緯
内田誠氏は2019年12月にゴーン元会長の逮捕後の混乱の中で社長に就任しました。就任当初は、ゴーン時代の拡大路線からの転換を図り、2030年までの長期ビジョンの策定やルノーとの資本関係見直しに取り組みました。
しかし、直近では中国や北米での販売不振により業績が急激に悪化しました。2025年3月期の連結純損益は6708億円の巨額赤字となり、これは過去3番目に大きな赤字となりました。さらに、ホンダとの経営統合に向けた交渉をわずか1カ月で打ち切ったことで、経営者としての素質を疑問視する声が社内外から上がっていました。
内田氏は退任について「従業員から信認を得られなくなったことなどを踏まえ、新しい経営体制に移行し、1日も早く再スタートを切ることが最善と私自身も判断した」と説明しています。日産の木村康取締役会議長も「内田氏の在任は5年を過ぎた。業界が厳しい中、当社も経営体制の刷新が必要だ」と退任理由を述べました。
高額報酬の詳細と構成
今回開示された退任報酬6億4600万円は、内田誠前社長と副社長3人の計4人に対するものです。なお、引き続き執行役を務めるスティーブン・マー氏を含めた5人の総額は16億5900万円に上りました。
日産の役員報酬は固定分と業績連動分などで構成されています。ただし、今回の報酬が業績悪化の責任を取った退任にもかかわらず高額であることから、株主からの反発を招く可能性が指摘されています。
深刻な業績悪化と大規模リストラ
日産は現在、「Re:Nissan」と名付けた経営再建計画を実行中で、変動費2500億円と固定費2500億円の総額5000億円の削減を目指しています。具体的には、グループ全体の15%に相当する2万人の従業員削減(生産1万3000人、販売管理3600人、研究開発3400人)と、国内外の車両工場を17カ所から10カ所へと減らす方針を打ち出しています。
4月に新社長に就任したイヴァン・エスピノーサ氏は、この大規模リストラについて「非常に悲しく、大きな痛みを伴う決定だ」「やりたくてやるわけではない。ただ、いま手を打たない限り問題は悪化するだけ。残念なことにこれが日産の将来を救う唯一の方法だ」と説明しています。
ホンダとの経営統合破談の経緯
内田前社長の経営能力への疑問が決定的となったのが、2025年2月のホンダとの経営統合協議の破談でした。この統合は、世界的な自動車業界の競争激化と中国のEVメーカーの台頭に対応するため、両社の技術開発や生産体制の効率化を目的として2024年12月に協議が開始されました。
当初、日産は「どちらが上、どちらが下ではなく、ともに未来を切り開く仲間として」対等な立場での統合を強調していました。しかし、2025年2月5日午後に開かれた日産の臨時取締役会で、経営統合の協議打ち切りが提案され、翌6日午前に内田社長がホンダ本社を訪れ、三部敏宏社長に協議終了を伝達しました。
破談の決定打となったのは、ホンダが日産に対して「子会社化案」を提示したことでした。従来の持ち株会社傘下に両社が入る形ではなく、日産をホンダの完全子会社とする案に対して、日産側は「子会社化は到底受け入れられない」と強く反発しました。
ホンダ側の視点では、日産の業績不振を受けてリストラを進めることが協議の前提条件でしたが、日産から提出された案には工場閉鎖などの抜本的な構造改革が含まれておらず、「いい加減にしてくれ。ホンダと日産で意思決定のスピードが違っていた」との不満を抱いていました。ホンダとしては子会社化により経営の主導権を握り、リストラなどを迅速に進める狙いがありました。
結果として、わずか1カ月半で協議は頓挫し、2025年2月13日に両社は正式に経営統合の検討終了を発表しました。この破談により、三菱UFJ eスマート証券の山田勉マーケットアナリストは「日産が存続する可能性が低くなった。経営陣の刷新を含めた新たな再建案を示せない限り、株価は低迷し続けるだろう」と分析しています。
社会からの強い批判・SNSでの炎上
今回の高額退任報酬の発表を受けて、SNS上では強い批判の声が相次いでいます。特にX(旧ツイッター)では「内田前社長ら」「報酬6億円」「執行役4人の退任」などの関連ワードがトレンド入りしました。
ユーザーからは「成果でも貢献でもなく、失敗の代償として支払われた報酬にしては額が大きすぎませんか?」「まともなら報酬辞退ではないのか?これまでも随分もらっているでしょうから」といった疑問視する声が多数上がっています。
また、「工場閉鎖で多くの従業員たちがあすの生活も不安なほど困窮するまで追い込まれる可能性がある中で、あまりにも理不尽」「2万人の従業員のクビを切って、退任する役員には4人で6億円の報酬これが日産、これが資本主義」といった、従業員のリストラと役員報酬の格差を問題視する意見も見られます。
日産経営陣の相次ぐ離脱
日産では近年、経営幹部の退任が相次いでいます。2022年には技術担当副社長の関潤氏が日本電産(現ニデック)に転職し、2023年にはアシュワニ・グプタ最高執行責任者(COO)が退任しました。さらに、スティーブン・マー最高財務責任者(CFO)の退任も近く予想されている状況です。
自動車メーカー関係者によると、「幹部のみならず、まるで逃げ出すように日産の将来を見限った優秀な社員の退職が続いている」状況だといいます。業績不振により内田前社長の求心力が急速に衰え、「内田社長では再建はできない」という声が社内・取引先の間で広まっていたとされています。
日産の今後の経営再建への課題
新たに社長に就任したイヴァン・エスピノーサ氏は、商品化企画を担当するチーフ・プランニング・オフィサー(CPLO)出身で、木村取締役会議長からは「日産愛が強く、情熱とスピード感をもって業績回復をリードできる」と評価されています。
しかし、日産が直面する課題は深刻です。新車投入やモデルチェンジの頻度が明らかに減少していることも社内の停滞ムードを強めており、優秀な人材の流出が続く状況が懸念されています。
今回の高額退任報酬問題は、株主代表訴訟に発展する可能性も指摘されており、日産の経営再建にとって新たな足かせとなる可能性があります。エスピノーサ新社長には、業績回復と同時に、ガバナンス体制の立て直しという重い課題が課せられています。
まとめ
日産自動車は2025年5月27日に、内田誠前社長と副社長3人の計4人に対して総額6億4600万円の退任報酬を支払ったことを公表しました。2025年3月期の連結純損益は6708億円の巨額赤字となり、中国や北米での販売不振が経営陣退任の主因となりました。内田前社長は従業員からの信認を失ったことを退任理由としています。日産は「Re:Nissan」経営再建計画の一環として、グループ全体の15%に相当する2万人の従業員削減と、車両工場を17カ所から10カ所へ減らす計画を発表しました。この高額退職金の発表はSNS上で従業員のリストラと役員報酬の格差を問題視する声が相次ぎ、関連ワードがトレンド入りする事態となりました。新社長のイヴァン・エスピノーサ氏には、業績回復とガバナンス体制の立て直しという重責が課せられており、優秀な人材の流出阻止も急務となっています。
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