トヨタ自動車は2025年10月13日13時より、トヨタイムズのYouTube生配信にて5ブランドプロジェクトを発表し、その中でレクサスのフラッグシップモデル「LS」の新しいコンセプトを世界初公開しました。従来のセダンスタイルからの大胆な転換となる6輪ミニバンタイプのコンセプトモデルは、自動車業界に衝撃を与え、トヨタの新たな挑戦の姿勢を象徴するものとなっています。
レクサス LS コンセプトの映像
レクサス公式YouTubeチャンネル(Lexus JP / レクサス)
LEXUS LS Concept | DISCOVER
レクサスLSとは?レクサスフラッグシップセダンとしての歴史と伝統
レクサスLSは1989年の初代モデル以来、トヨタのフラッグシップセダンとして36年間にわたり君臨してきた名車です。日本名でセルシオと呼ばれた初代LSは、アメリカのレクサスチャネルを作る際の最初の1台として誕生し、ヨーロッパのプレミアムブランドに対抗するトヨタ初の本格的な高級車として開発されました。
初代セルシオ/LSは「最高級車の創造」を目指し、時間と予算を惜しみなく投入して開発されました。その圧倒的な静粛性、滑らかな乗り心地、そして寸分の狂いもないと評された内外装の品質は、当時のメルセデス・ベンツやBMWといった欧州の高級車メーカーに衝撃を与え、「セルシオ・ショック」という言葉を生み出したことで知られています。
パワートレインには新開発の4.0L V型8気筒DOHCエンジン「1UZ-FE」を搭載し、徹底したフリクション低減と高精度な組み立てにより、驚異的な静粛性と滑らかな回転フィールを実現しました。世界初の自発光式メーターや、SRSエアバッグ付き電動チルト&テレスコピックステアリングなど、先進装備も積極的に採用し、レクサスブランド、そして日本の高級車の歴史はこの一台から始まったのです。

「LSのSは誰がセダンと決めたんだ」豊田会長の挑戦
今回発表されたLSコンセプトは、これまでの常識を覆す革新的なアプローチを採用しています。豊田章男会長は生配信の中で「LSのSは誰がセダンと決めたんだ」と問いかけ、これまで「ラグジュアリーセダン(Luxury Sedan)」の頭文字とされてきた「S」を、「スペース(Space、空間、宇宙)」という新たな意味へと再定義しました。つまりLSの車名は(Luxury Space)であり、ラグジュアリーな空間や宇宙を意味するモデルであることが示されました。
この発想の転換は、単なる車種変更ではなく、レクサスブランドの本質的な変革を象徴しています。豊田会長は開発陣とのSNSでのやり取りの中で、「3列シートの新しい形」「セダンじゃない」「LMはやっぱアルファードの進化だが、LMからさらに進化される新しい形」と具体的な方向性を示し、既存のレクサスLMとも異なる、全く新しいカテゴリーの車を創造することを目指しました。
このプロジェクトは約2年前の2024年5月から始まり、豊田会長とチーフエンジニアの渡辺孝志氏とのSNSでのやり取りから具体化していきました。豊田会長は「この車から降りてくる時はステージにスポットライトが当たって降りてくるような演出を車でやってあげたら、それ乗る人はもっと気持ちよくなるんじゃないか」と、乗降時の体験にまでこだわりを見せており、単なる移動手段ではなく、乗る人の人生を豊かにする空間としてのLSを追求しています。
6輪ミニバンという革新的なパッケージの秘密
新型LSコンセプトの最大の特徴は、前例のない6輪を採用したミニバンスタイルです。このアイデアは、豊田章男会長の「なぜ月でしか走れないんだ」という一言から生まれました。トヨタがJAXA(宇宙航空研究開発機構)とともに開発中の月面探査車「ルナクルーザー」が6輪を採用していることに着想を得て、その技術を地球上で走る車にも活用しようという発想から、このプロジェクトはスタートしました。
ルナクルーザーは月面での有人探査活動に必要な有人与圧ローバとして、2019年からJAXAとトヨタの共同研究で開発が進められています。月面は重力が地球の6分の1、温度はマイナス170℃から120℃、真空、強い放射線、表面は月の砂(レゴリス)に覆われているという大変厳しい環境であり、ルナクルーザーには最高レベルの信頼性、耐久性、走破性が求められています。
6輪化による最大のメリットは、広大な室内空間の確保にあります。リアタイヤを小型化することで、従来は難しかった3列目シートへのアクセスが大幅に改善され、室内効率が飛躍的に向上します。デザイン部門のサイモン・ハンフリーズチーフブランディングオフィサーは、人形を使ったプレゼンテーションで、6輪化によってリアタイヤが小さくなり、中のスペースが広くなる利点を視覚的に説明しました。
また、6輪独立した駆動力コントロールができることで、走行安定性や乗り心地の向上も期待されています。月面探査車で培われた技術をフィードバックすることで、地球上でもこれまでにない快適性と走破性を実現する可能性があります。

パワートレインとテクノロジー
新型LSコンセプトはバッテリーEV(電気自動車)として開発が進められています。インホイールモーターを採用することで、従来のようなドライブシャフトを通さない設計が可能となり、室内効率のさらなる向上が実現できます。
電動化によって、各ホイールを個別に制御できるため、6輪それぞれの駆動力を最適にコントロールすることが可能になります。これは月面探査車ルナクルーザーで採用されている技術と同様のアプローチであり、モーターで車軸の動きを制御する特別なサスペンション機構を組み合わせることで、かつてない乗り心地と走行性能を実現できる可能性があります。
デザインコンセプトとショーファーカーとしての進化
デザイン面では、ショーファーカー(運転手付きの高級車)としての快適性を極限まで追求しています。レクサスはすでにミニバンタイプのフラッグシップモデルとしてLMを展開していますが、LMは基本的にアルファードをベースとした進化形という位置づけです。
レクサスLMは約1,520万円から1,910万円の価格帯で、アルファードの約540万円から872万円と比較すると、600万円以上の価格差があります。LMは航空機のファーストクラス級の後部座席を実現し、最高級セミアニリン本革や上質な木目パネル、マークレビンソンの高級オーディオシステムなどが標準装備されており、ビジネスエグゼクティブ向けのショーファードリブンカーとして特化した設計となっています。
しかし今回の新型LSコンセプトは、LMをさらに超える「3列シートの新しい形」として構想されており、アルファードの延長線上にあるLMとは明確に差別化された、全く新しいカテゴリーの車として開発が進められています。豊田会長が語った「この車から降りてくる時はステージにスポットライトが当たって降りてくるような演出」という発想は、単なる移動空間を超えた、乗る人の人生そのものを演出する車という新しい価値観を示しています。
レクサスブランドの新たな位置づけと自由な挑戦
今回の5ブランドプロジェクトでは、センチュリーがトヨタグループの最上級ブランドとして明確に位置づけられることで、レクサスは「長男坊」の役割から解放され、より自由に大胆な挑戦ができるブランドへと変貌を遂げます。豊田会長は「センチュリーがアバブレクサスになることで、レクサスの動きはより自由になる」と説明しました。
これまでレクサスはトヨタグループの中で最高級ブランドとして、一定の格式や伝統を守る必要がありました。しかしセンチュリーがその役割を担うことで、レクサスはより革新的で実験的なことに挑戦できる自由を得たのです。
レクサスのブランドCMでは「恐れや苦悩に向かって自分の道を信じる人だけが世界を広げることができる。誰の真似もしない」というメッセージが掲げられ、パイオニア精神を体現するブランドとしての姿勢が明確に打ち出されています。開発陣とのやり取りを通じて「ディスカバー(発見する)」「誰の真似もしない」という言葉が選ばれ、これが新型LSのCMキャッチフレーズとなりました。
CMと実車開発の同時進行
興味深いことに、今回のLSコンセプトのCM撮影は、実際に3台の歴代レクサスを象徴するモデル(2000GT、LFA、新型LSコンセプト)を使って行われました。CMディレクターの野添象さんが実車を使った撮影を行っており、コンセプトカーとはいえ、実際に動く車両として開発が進んでいることが明らかになっています。
豊田会長は「コンセプトカーは必ず本気でやってます」と断言し、市場の反応を見ながら商品化に近づけていく方針を示しました。過去にもコンセプトカーとして発表されたモデルが実際に商品化された例は多く、今回の6輪LSも十分に実現可能性があると考えられます。
CM撮影では、歴代のレクサスを象徴する車として2000GTとLFAが選ばれました。2000GTは1960年代にトヨタが世界に挑戦した伝説のスポーツカーであり、LFAは2010年代のレクサスの技術の粋を集めたスーパーカーです。これらと並べて新型LSコンセプトを撮影することで、「誰の真似もしない」「ディスカバー」というメッセージを視覚的に表現しています。
開発状況と今後の展望
新型LSコンセプトの詳細は、2025年10月24日から開催されるジャパンモビリティショー2025で公開される見込みで、自動車ファンの注目が集まっています。このモーターショーでは、センチュリークーペや次期カローラなど、トヨタの5ブランドプロジェクトで発表された様々なコンセプトカーが一堂に会する予定です。
豊田会長は今回披露された数々のコンセプトカーについて、「これらは全て本気で実現したいと思っている」と力強く語っており、単なる未来予想図ではなく、実際に商品化を目指した開発が進められていることを強調しました。
生配信に登場したチーフエンジニアの渡辺孝志氏は、豊田会長とのSNSでのやり取りを通じて、このプロジェクトを約2年前から進めてきたことを明かしました。渡辺氏は「3列シートの新しい形を考えてほしい」という豊田会長からの要望を受け、既存の枠組みにとらわれない発想で開発を進めてきました。
現行レクサスLSの最新モデル情報
一方、現行の5代目LSは2025年9月25日に一部改良モデルが発売されています。価格は1,111万円から1,773万円で、新たに「ホワイトノーヴァガラスフレーク」と「ディープブルーマイカ」の2色が全車に設定されました。また、フロント・リヤシートヒーターが全車標準装備となり、快適性が向上しています。
現行LSは2017年にデビューした5代目で、一般的なモデルチェンジサイクルから考えると、2026年後半から2027年初頭にかけて次期モデルが登場する可能性が高いとされています。しかし、今回発表された6輪ミニバンコンセプトが実現するまでには、技術的な検証や法規制への対応など、まだ時間がかかる可能性があります。
現行LSは、GA-Lプラットフォームを採用し、低重心化と高剛性化によって優れた走行性能と乗り心地を実現しています。パワートレインには3.5L V6ハイブリッドのLS500hと、3.5L V6ツインターボのLS500が用意され、後輪駆動と四輪駆動を選択できます。

トヨタの新たなクルマづくりのビジョン
今回の5ブランドプロジェクトは、トヨタグループ全体のブランド戦略を大きく変革するものです。センチュリー、レクサス、トヨタ、GRという4つのブランド(後にクラウンが加わり5ブランドに)それぞれに明確な役割を与え、各ブランドの特徴を最大限に引き出す戦略が示されました。
センチュリーは「日本の最高峰」として、伝統と格式を重んじる最上級ブランドに位置づけられます。レクサスは「パイオニア」として、誰の真似もしない革新的な挑戦を続けるブランドとなります。トヨタは「大衆車」として、幅広い層に愛される信頼性の高い車を提供し続けます。そしてGRは「モータースポーツ」の精神を体現する、走る楽しさを追求するブランドとして確立されます。
豊田会長は「普段は競合し合っているCM制作会社のメンバーに、今こそトヨタ全体のブランドを考えた時に、どんなCMがありなのかを考えてもらいた��」と呼びかけ、このプロジェクトを始動させました。競合他社に対抗するのではなく、トヨタグループ内でそれぞれのブランドが個性を発揮し、お互いに刺激し合いながら成長していく新しいアプローチです。
世界が注目する日本の自動車産業の挑戦
今回発表された6輪LSコンセプトは、単なる奇抜なアイデアではなく、月面探査という究極の環境で培われた技術を地球上の車に応用するという、トヨタの技術力の高さを示すものです。月面で鍛えられた技術は地球へフィードバックされ、もっといいクルマづくり、持続可能な社会や地球のための技術の発展に生かされます。
電動化、自動運転、コネクテッドなど、自動車業界は大きな変革期を迎えています。その中でトヨタは、単に技術を追うのではなく、「人々の生活を豊かにする」という本質的な価値を見失わない姿勢を貫いています。6輪LSコンセプトは、その姿勢を象徴するモデルといえるでしょう。
ジャパンモビリティショー2025での詳細発表が待たれる新型LSコンセプトは、レクサスブランドの新たな扉を開く鍵となるだけでなく、日本の自動車産業全体の未来を示す重要なモデルとなる可能性を秘めています。



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