2025年10月29日、トヨタ自動車はジャパンモビリティショー2025のプレスブリーフィングにおいて、最高級車「センチュリー」を独立したブランドとして展開することを発表しました。同時に、市販化に向けて開発を進めているセンチュリークーペ(Century Coupe)を世界初公開し、日本の伝統と最新技術を融合させた「ジャパン・プライド」の象徴として、新たな挑戦を打ち出しています。

センチュリーの歴史と伝統
センチュリーの始まりは1967年11月にまで遡ります。トヨタグループの創始者である豊田佐吉の生誕100周年を記念して命名され、「明治100年」にも重なることから、「次の100年をつくる」という意味が込められました。開発を担当したのは、トヨタ初の主査である中村健也氏で、1963年から開発がスタートしています。
当時は「何の伝統も名声もないトヨタが、世界に通用する最高峰の高級車など作れるわけがない」という声が多数ありました。しかし中村氏は「伝統は後から自然にできるもの。今までにない新しい高級車をつくろう」と、斬新なアイデアや革新的な技術に果敢に挑戦しました。同時に、鳳凰のエンブレムには「江戸彫金」、シート生地には「西陣織」など、日本の伝統・文化を取り入れることで、「最新技術」と「日本の伝統・文化」の融合を実現したのです。

初代センチュリーは、V型8気筒OHVの3,000ccエンジンを搭載し、デビュー当時の価格は208万円でした。クラウンエイトからのバトンを継ぐ形で誕生したこのモデルは、細かな改良が加えられつつも、基本構造を変えることなく実に30年間も生産・販売され続けました。
1997年には2代目が登場し、2018年には現行の3代目が発表されています。3代目からはV型8気筒5.0Lエンジンとモーターを組み合わせたハイブリッドシステムを採用し、時代に合わせた進化を続けてきました。さらに2023年には、センチュリー史上初となるSUVタイプが追加され、ラインナップが拡大しています。

独立ブランドとしての新たな位置付け
トヨタ自動車の豊田章男会長は、これまでセンチュリーの居場所が明確ではなかったという問題意識から、レクサスより上のという意味の「アバブ レクサス(Above Lexus)」として独立ブランド化を決断しました。「One of One」「Top of Top」を掲げ、レクサスよりも上位の最高峰ブランドとして位置付けられることになります。
豊田会長は、プレスブリーフィングで「『平和日本の再建』と『世界文化への寄与』という創業者・豊田喜一郎の想いを、センチュリーは背負って生まれた」と語りました。終戦からわずか18年後の時代に、日本人としてのプライドを取り戻すために生まれたセンチュリーは、今や「失われた30年」と呼ばれる日本にこそ必要なクルマだと強調しています。
センチュリーには「トヨタ」の文字がなく、フロントグリルには工匠が約1ヶ月半もかけて手彫りで金型を作成した「鳳凰」のエンブレムが輝きます。この鳳凰は、世界が平和な時代にのみ姿を見せる伝説の鳥であり、世界の平和を願うセンチュリーの精神を象徴しています。

世界初公開のセンチュリークーペ
ジャパンモビリティショー2025で世界初公開されたセンチュリークーペは、2ドアのショーファーカーという新たなコンセプトを採用しています。まばゆいオレンジ色の車体が特徴的で、内装は2列シートですが、助手席がなく3人乗車のデザインとなっています。





この構造により、左右独立の後席が設定され、特に左側の後席は大きく前後にスライドします。イメージとしては航空機のファーストクラスで、広く大きな空間を贅沢に使った設計となっています。座席には伝統の西陣織が使われており、日本の伝統美を感じさせる仕上がりです。
コクピットも大きく進化しており、ショーファーカーでありながら、ブラックバタフライ的なデザインを大きく採り入れ、新たな世界観を提示しています。トヨタは市販化に向けて開発を進めているとしており、今後のラインナップ拡大に期待が高まります。





現行ラインナップの充実
現在のセンチュリーは、セダンタイプとSUVタイプの2モデルが展開されています。
セダンタイプは、全長5,335mm、全幅1,930mm、全高1,505mmで、センチュリー伝統のV型12気筒エンジンを搭載し、FR(後輪駆動)を採用しています。低重心で安定した上質な乗り心地と静粛性が追求されており、乗車定員は5名です。
一方、SUVタイプは、全長5,205mm、全幅1,990mm、全高1,805mmで、V型6気筒エンジンのプラグインハイブリッドを搭載しています。価格は2,500万円(約2,500万円)で、セダンタイプよりも燃費性能が向上しています。乗車定員は4名で、四輪操舵システム「ダイナミックリアステアリング」を設定し、低速域では取り回しの良さ、中高速域ではシームレスかつ自然なハンドリングを実現しています。
特筆すべきは、ドライバーの運転操作をサポートし、後席に乗る方の快適な移動を実現する「REAR COMFORT」モードが初設定されていることです。後席に座る方が気づかないほどに、スムーズな車線変更を実現するほか、停車時の揺り戻しを抑えるブレーキ制御を支援してくれます。
GRMN仕様の存在
センチュリーには、TOYOTA GAZOO Racingが展開する最高峰のコンプリートカーである「GRMN」仕様も存在します。現時点では市販化の予定はないものの、2022年のラリージャパンやその他のイベントでたびたび目撃されており、ファンの間では大きな注目を集めています。
センチュリーGRMNは、前後のスポイラーやサイドスカートなど専用エアロを備え、タイヤもサイズアップするなど、GRMNらしい走行性能を高めるカスタムが施されています。2023年にセンチュリーSUVモデルが発表された際には、SUVモデルのGRMNもお披露目されました。
レクサスとの役割分担
センチュリーがブランド独立したことで、トヨタグループ内での役割分担がより明確になりました。センチュリーは「One of One」を掲げる最上位のハイエンドブランドとして、レクサスは「DISCOVER」をテーマにパイオニアとしてチャレンジを進める革新的なブランドとして、それぞれの道を歩むことになります。
豊田会長は「センチュリーはレクサスより上の最上位に位置づける」と明言しており、センチュリーが格上のブランドであることを強調しています。レクサスは電動化技術のリーダーという役割を担い、ジャパンモビリティショー2025では6輪という斬新な姿のLSコンセプトも世界初公開されました。
購入方法と入手性
センチュリーは一般販売されていますが、センチュリーマイスターがいる限られた販売店のみで購入可能です。極めて限定的な生産台数と、手作業で組み立てられる東府工場での生産体制により、その希少性がさらに価値を高めています。
注文を受けてから納車まで、1台あたり1か月もかけてつくりあげられるという、こだわりの生産方式は初代から変わらず受け継がれています。もちろん公用車がメインの用途ですが、「みずからハンドルを握られても、心ゆむまでご満足いただけましょう」と、オーナードライバーも想定された設計となっています。

未来への挑戦
豊田章男会長は、プレスブリーフィングの最後に「『ネクスト・センチュリー』にご期待ください」と締めくくりました。センチュリーは単なる車名ではなく、世界の平和を心から願い、日本から「次の100年」をつくる挑戦そのものなのです。
今の日本には、世界に広がった自動車工業があり、モノづくりの技能があり、美しい自然や豊かな食文化、おもてなしの心があります。音楽やスポーツの世界でも、日本の魅力を世界に発信し続ける若者たちがいます。豊田会長は「今こそ、『センチュリー』が必要なのではないか」と語り、日本の伝統と最新技術を融合させた「ジャパン・プライド」を世界に発信していくという強い決意を示しました。
ジャパンモビリティショー2025で発表されたセンチュリーブランドの独立と新型クーペの登場は、日本の自動車産業にとって新たな時代の幕開けを告げるものとなりそうです。60年近く守ってきた最高級車の立ち位置が大きく変わり、センチュリーは日本の伝統美と最高峰の品質を世界に発信する存在として、新たな一歩を踏み出します。

 
  
  
  
  

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